3.一般演題①
座長:香川県立中央病院 脳神経外科 診療課長 市川智継
急速な腎嚢胞増大に対してトルバプタンを導入した、
常染色体優性多発性嚢胞腎と結節性硬化症の隣接遺伝子症候群の一例
演者:室賀千佳(1) 横山浩己(1) 木下 亮(1) 山田祐子(1) 藤森大輔(1)
岡西 徹(2) 難波範行(1)
(1)鳥取大学医学部周産期小児医学分野
(2)鳥取大学脳神経小児科
【はじめに】 PKD1とTSC2は16番染色体上で隣接しており、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と結節性硬化症(TSC)の双方の症状を示す隣接遺伝子症候群が知られている。ADPKDは60歳までに約半数が末期腎不全に至るとされるが、稀に小児期から腎嚢胞が急速に増大し、早期に腎不全に至る症例が報告されている。
【症例】症例は11歳女児。出生時に白斑を認め、6ヶ月時にシリーズ形成性スパスムを発症し、頭部MRIと白斑からTSCと診断された。6歳で多発嚢胞腎、高血圧、蛋白尿を認め、遺伝子検査で、TSC2のexon42とPKD1のexon27-46の欠失を認め、ADPKDとTSCの隣接遺伝子症候群と診断された。腎嚢胞は急速な拡大を認め、身長補正腎総容積は10歳3ヶ月で587 mL/m、11歳2ヶ月で810 mL/mと増大を示した。腎予後は極めて不良と判断し、院内倫理審査を経てトルバプタンを導入した。導入後は尿量増加や尿浸透圧低下を認めたが、明らかな有害事象はなく、治療を継続している。
【考察】 腎嚢胞の急速な増大を来したADPKDとTSCの隣接遺伝子症候群の11歳女児にトルバプタンの導入を行った。 トルバプタンは成人ADPKDの嚢胞増大抑制や腎機能低下の抑制効果が認められているが、小児では未だ適応はなく、使用報告は極めて稀である。本症例は急速な腎容積の増大から、腎予後が極めて不良と判断し、トルバプタン導入に至った。導入時点では明らかな有害事象は認めていない。腎嚢胞の長期経過や腎予後、有害事象について慎重なフォローと評価を継続する必要がある。
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